手の平の中に、世界はあった。

ガラケーって言葉も無かった頃の携帯電話ゲームとか昔のゲームとか、他なんやかんやを書き残しておきたい、そんなブログです

「DropPoint」―GROG-17Gはディナービュッフェの夢を見るか?

 前作「Time Machine」は未来の子孫に仕送りする、というゲームの趣旨は結構な変化球だったが、本来触れ合うことのない時間軸と触れ合うストーリーという点は王道でど真ん中コースだった。

その次に合同会社ズィーマことじぃーま氏(@somebow_ippan)が出したゲームは、スタートから中々トバしてるなぁ…という設定で我々プレイヤーの興味を引いたのである。

「DropPoint」、これは有機と無機を混在させた、血の通わない冷たいロボットを材料にした温かみのある物語なのだ。これだけ書くとこれもまた王道に見えるが、違う。違うのだ。どう違うかをこれからつらつらと書いていこう。

 

 

 

『ロボットはオイルのみにて生くるにあらず』

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 https://apps.apple.com/jp/app/droppoint/id1268988064

 

 ヒトのような挙動を見せる機械、というのは昔から愛されているエッセンスだ。ヒトの外見をしたアンドロイドだヒューマノイドだという存在はフィクションで数多作られ、ヒトが如く学習し思考するAIは好感でもって歓迎される。

「DropPoint」のロボットの"ヒトらしい挙動"、それは『ヒトのように食物を食べる』点にある。

プレイヤーはゲーム内でエンジニアとしてロボットと交流していくのだが、オープニングでこのエンジニアは何故かおもむろにロボットに味覚センサーを搭載させる。させやがる。プレイヤーに手ずからやらせる。

これにはロボットも困惑である。プレイヤーも困惑である。当然ロボットは問うのだ、「なぜ?」と。答えは、「出先でお腹が空いたらかわいそうだから」。このお腹とは精神的オナカ、なのだそうだ。

今プレイし直してもクレイジーはクレイジーな考えだが気持ちはわからんでもないなあ、と思う。モノアイで表情の動かない無機の存在に、まるでヒトを相手にして話しているような言い草で、食材を調理し詰めた『お弁当』というヒトの獲得した文明の粋で加工されし有機物のカタマリを与える。すごいギャップであり、面白いアプローチだ。ロボットがヒトと同じものを食べて糧にするってどうしてこんなに心がときめくのか、詳しくは解らないがとにかく良い。

かくしてロボット君はミュータントはびこるポストアポカリプスで世紀末な世界へと降下し、人類のために出撃し敵性生物を倒していく。プレイヤーは彼が生きて帰れるように武装を、そして彼の精神の拠り所となるようにお弁当を選択し過酷なピクニックへと送り出すのだ。

 

本作の課金について

「DropPoint」にもいくつかの課金要素があり、「Time Machine」と同じくロボット君が課金による影響を感知して喋ってくれる。料金は内容によって110円or220円とやっぱり安い。

「Time Machine」は無課金でのんびり時間をかけて遊ぶのもまた風情があって良いものだったが、「DropPoint」に関しては『タイムマシン』は個人的に準推奨と言わせていただきたい。

1回の出撃で短くても3時間程度と長時間待たされるのを1周エンディングに至るまで何十回とやるのは正直に言うとテンポが悪い。タイムマシンで広告閲覧なくサクサク帰還→出撃ができると快適性が全然違うのだ。220円の買い切りアプリと考えればそれでも破格に面白いのでよろしくお願いします。より快適に周回するなら『つよくてニューゲーム』があると楽な場合があるがその辺はお好みで。

 

たっぷりの会話テキストがロボットを魅力的にする

 じぃーま氏のゲームは毎作本当にキャラがよく喋る。「Time Machine」の時点で子孫くんの何気ない会話のバリエーションに舌を巻くほどだったのに「DropPoint」はその上を行くおしゃべりさんだ。

武器やお弁当の選択時もぺちゃくちゃコメントをくれ、出撃中の通信も経過時間の前半・後半・終盤で3パターンある。帰って来れば持たせたお弁当の感想を言ってくれる。

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味噌汁も飲めるロボット君

やはりキャラが生きている感覚をプレイヤーに抱かせるには、キャラの人格が浮き上がってくるほどの多量で丁寧な会話テキストを入れ込んで掘って掘って掘り下げていくのが効果的なのだ。

ロボット君がはじめて見る料理のお弁当を持たせれば丁寧、丁寧、丁寧に食レポをやってくれるものだから、ついつい「あのお弁当は気に入ってくれたようだからもう1回持たせてあげようねえ」と選びたくなるし、反対に水はかわいそうになるからお弁当代はある程度残して武装と修理をしてあげよう…と手持ちのお金の計算をしだす。

"学校に子どもを送り出す親の気持ちになるゲーム"を作ろうとしてできたのが本作だとはじぃーま氏の言だが、プレイを重ねていくと本当にだんだんと自分が家計をやりくりする親になったような錯覚がしてくるし、ロボットは我が子のように愛しく思えてくる。

この義理の息子はちょっと小生意気で緊張感が無くて、すっかりヒトの食糧の味を知った結果、ジャンクフードはそこはかとなくココロが満たされない……などとわかった風な事を言う、本当に小生意気な子だ。

こっちは世話を焼いていくうちに愛着が湧いてくるのに、ロボット君は中々ドライで媚びと言えるような振る舞いはほとんど?多分全く?無い。

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でもこっちが好意を示したり頼るとまんざらでもない

この距離感はだいぶ、楽しい。こやつめハハハと笑いながら戦場へと放り込める程よい気安さがロボット君を『戦争モノの父と息子』みたいなシチュエーションの息子の方っぽく見せているのだ。

 

手を離し、背中を押す覚悟を問われる日

 出撃する際、あらかじめどんな敵と戦うか、そして出撃した際の生還率が画面に表示される。この「生還率」の要素はホンワカした本作の雰囲気をホンワカしたままボンヤリさせず、ギュッと引き締めるシビアな命の数字だ。

幸い神風特攻を強いられるようなシステムにはなっておらず、勝つ見込みが薄い敵はスキップ、つまり回避する事ができる。引き換えに敵を撃破した際に上がる「人類開放度」はダウンするが勝てる敵を選んで勝っていけば取り戻せるパラメータだ。というか「人類開放度」はその実ストーリー進行度と言ってよいパラメータなので実力が伴っていないと感じたら割と恐れず後戻りしてよいものだ。

このスキップの選択基準はもちろん生還率になるわけだが、さてこの生還率で退くか退かざるかを区切るパーセンテージのラインは人それぞれ違うだろう、というのがこのゲームの面白いところだ。5割でも突っ込ませる人は突っ込ませるし8割と切るともう落ち着かない、という人もいるだろう。9割超えても不安?さてはファイアーエムブレムを知る者だな?大丈夫大丈夫さすがにたぶん大丈夫だ信じておあげ。

やられてゲームオーバーになっても出撃直前からやり直すことはできる。それでもロボット君の痛ましい姿を見たくない、必ず生きて帰って来て欲しいと思い始めたら、それは過保護の入り口である。

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出撃スキップ時に悔しそうにされるとちょっと罪悪感

確実に勝てる戦いだけに出したい、なるほどその気持ちはわかる。

 

―――では勝率不明の戦いに直面した時、【あなた】はどうしますか?エンジニア。

 

割と後戻りしてよいつくりではあるが、あくまで割とであることに注意しておくべきだ。わずかにだが、この戦闘スキップが関係するエンディングが存在する。このエンディングを通して自分は『心配なのはわかるけど、いつか親は子供を信じて送り出さなければいけない日が訪れる』ものなんだよ、と言われたような気がした。

そう、この「DropPoint」で得られるのは、疑似子離れ体験なのである。いやほんとに。

 

軽度のメシテロゲー、あるいは今夜の晩餐を決める一助

 こんなエンジニア達の心の揺れ動きをよそに、ロボット君は今日も往く。

 持たせるお弁当は実に25種類とバリエーション豊富だ(若干名お弁当と呼ぶにはどうなのかという品もあるが)。私たちが日常何気なく食べているご飯の数々を物珍しそうにグルメレポートしてくれるロボット君を見ていると「この後の食事はこれ食べようかな?」となるかもしれない。ならないかもしれない。どっちにせよこのゲームを見ていて思うところは変わらない。

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カレー。それすなわちナマステ。

ロボット君と一緒に、生きて食べる暮らしは悪くない、という事だ。

とりあえず今夜はカレーにしようかな。