手の平の中に、世界はあった。

ガラケーって言葉も無かった頃の携帯電話ゲームとか昔のゲームとか、他なんやかんやを書き残しておきたい、そんなブログです

ネトゲ→携帯電話ゲームの先駆け?「ウルティマオンラインモバイル」を語る

 

 2019年である。

数多のゲーム廃人を生んだ「ラグナロクオンライン」は「ラグナロクマスターズ」となってスマホ向けにチューニングされて降りて来た。

メイプルストーリー」も「メイプルストーリーM」と名乗り元気そうにしている。

リネージュ」は前述2作よりも前に「リネージュ2 レボリューション」を出した上に「リネージュM」とたたみ掛けてきている。

重ねて言うが、今は2019年である。だのに今年はちょっと懐かしいタイトルが携帯ゲーム界にやって来すぎなんである。

そしてこやつらオンラインRPG……MMORPGと呼ばれた作品達を見ると自分はひとつの携帯アプリゲームを思い出さずにはいられなかった。

それがタイトルにある「ウルティマオンラインモバイル」、略称「UOM」である。

 

ダウンサイジングされたブリタニアでの冒険者暮らし

  ウルティマオンライン、通称「UO」。それはネトゲというものを知る者はほぼほぼ知っているだろうオンラインRPGの金字塔。

ロード・ブリティッシュ王が治めしブリタニア国の冒険者となり剣と魔法の世界を生きる体験は当時のPCゲーマー達を魅了し、素晴らしくも恐ろしいことに今だにサービスが続いている世界中で愛されし名作だ。

時に冒険に赴いてモンスターを狩り、時に集めた材料で黙々とアイテムを製作し、そうして同じようにここでの生活を謳歌している仲間と交流のひと時を過ごす。遠く離れた他人とも楽しさを共有できる快感は当時とても新鮮で甘美なものだった。

 ……だったのだが。当時の10代の若者は皆が皆PCでバリバリオンラインゲームをやっていたわけではなかった。2000年ごろの一般家庭におけるPC普及率は50%を超え出したくらいだったそうだが、当時まだまだ高価だったPCは『大人の持ち物・大人が使うもの』だった。家長であるお父さんがお仕事やネットサーフィンに使い、高校生以下の子供はそのおこぼれにちょっとソリティアマインスイーパー、あとピンボールを遊ぶのがせいぜいで、ネットワークで繋がってゲームを遊べる携帯電話はいわばPCの下位互換、代替品のようになっていた。

そんな背景があってのこの「UOM」の提供開始の知らせは、ティーンのゲーマーにとって福音だったと言える。

 

 いざ乗り込んだ手の平に収まるサイズのブリタニアは自分にとって素晴らしい地だったのをよく覚えている。ブリテイン、ミノック、バッカニアーズデンといった「UO」でもおなじみのブリタニアの街々は、どこも拠点として腰を下ろし交流に勤しむ冒険者たちで賑わっていた。

まずプレイヤーが操作するキャラはレベル制ではなくスキル制で強くしていくシステムだった。0から始まって該当スキルを使い込んでいく事で最大100まで上がり、スキル総合計値に上限があったため(たしか全て合わせて600?だったか800?だったか)何でもできるキャラにはできず、戦闘も生産も何もかもひっくるめての総合計値だったので何のスキルをどこまで取るのか中々にシビアな取捨選択を迫られた。その結果プレイヤーごとに個性、得手不得手の差が生まれた。これにより、

『自分1人で出来ない事はどうしても発生するので他プレイヤーにアイテム調達を頼んだりパーティーを組んで戦闘する』

というオンラインゲームの美味しい部分にごく自然に誘導できていたのは良かった点だ。当時ハマって遊んでいた「ミラクルくえすと」にはあまり多く含まれなかった面白さの栄養素である。「ミラクルくえすと」も他プレイヤーとパーティーは組めたが『どうしても組まなくてはどうにもならない』感は薄かったためだ。

スキルが上がっていくと戦闘であればより強いモンスター、生産であればより難しいアイテムに挑まねば経験値が増えなかったためステップアップの動機は否応なしに生まれた。ずっと現状維持でヌルく、という暮らしにさせない事でプレイヤー間の色々な需要と供給は停滞せず巡り、回り続けていたように思う。金か足かで稼ぎ、100まで極めたスキルの存在は誇らしく思えた。

「生産」と今さらっと書いたが、特にあの頃は素材を集めて自分で装備品やアイテムを作るいわゆる『クラフト要素』、そしてモノ作りを生業にする『生産職』という概念はありふれたものではなかった時代で、非常に刺激的・画期的だった。材料採取から作るまでの過程は楽しくてしょうがなかったし出来上がった品物を他のプレイヤーと売り買いできるオンラインならではのやり取り、繋がりは成立するたびに嬉しかった。

「UOM」では海を渡るのに船が要ったため、慣れて来た自分は最終的に、

木を伐採して木材を得て→船を自作し他プレイヤーにも売り→船でなければ行けないダンジョンでドラゴンのたぐいをしばいて鱗を集め→ドラゴンスケイル製の防具を仕立てる。

これがライフワークだった。懐かしい思い出である。

  戦闘面で個人的に好きだったのは魔法のシステムだ。作品にもよるがウルティマシリーズは魔法を撃つのに独特のコストがかかるパターンが存在する。「UOM」もそうで、魔力の他に「秘薬」と呼ばれる触媒を用意しておかねばならず、これをどっさり持ち歩いて魔法使いプレイをしているとアナログでハイファンタジーな趣を感じたんである。黒真珠だマンドラゴラだと革袋にでもギッチリ詰めて腰にさげてるのかなー?なんて想像して楽しんでいた。

プレイヤーとしては嬉しくないが「UOM」の魔法は確定発動ではなかった。魔法も使い込んで上げるスキルの1つだったのでちょっとかじった程度では下級魔法くらいしか安定して使えなかったのだ。不便でイヤだと思う人もいただろうがこういうシステムだとロールプレイのエッセンスになる、という利点もあったので一概に良くない点と評価を下すのはよろしくないだろう。スキルも無いのに上級魔法を撃ちたがるポンコツ魔女っ子になる自由があのゲームには確かにあったのだ。

 

マイルドにとっつき易かった

 「UOM」の冒険者同士が交流する場には、そこそこ女性プレイヤーとおぼしき人が見受けられていた覚えがある。

元の「UO」はいかにも洋ゲーでございという高頭身・のっぺらぼうフェイスの可愛げの欠片も無いグラフィックであり、硬派と言えば聞こえはいいがPK(プレイヤーキル)があって死体にされ所有物を漁られというエグみもあったPC世界のブリタニアは当時の女性ゲーマーにとって魅力的に写るものとは言い難かった。

それと比べると「UOM」のグラフィックは自キャラに関しては明確に差があってカワイイ雰囲気があった。戦闘時に相対するモンスターは相応におっかなさを醸し出し、マップチップはあの時代にはよくある風合いのドット絵で表現されていた。

20年近く前の携帯のスペックでは「UO」に詰め込まれた要素の全てを移して魅せる事など到底無理であったわけで、グラフィックのみならずシステム面で除かれた要素もあったしアイテムの数も向こうに比べれば大分少なかっただろう。

その結果「UO」より出来は簡素に・マイルドになり、「UO」よりはプレイヤー側がふるいにかけられ脱落する事はあまり無かった、と思う。

先ほど述べた魔法システム、「UO」では秘薬コストの他にスペルブックだスクロールだ何だともう1段しゃらくさいシステムがあるようなのだが、これがそのまま「UOM」に来ていたら魔法職を選ぶのは大分ディープなゲーマーばかりになっていたかもしれない。

「UOM」は実はドワンゴ社が提供していたアプリゲームだった。今のドワンゴはデカくなった分色々言われているが、このゲームに携わったドワンゴスタッフは少なくとも「UO」から何を拾い上げ、何を置いて行くかの選別センスが良かったスタッフだったと思う。

 

「UOM」は早すぎた挑戦だったのか?

 かように遊んでいて楽しいゲームだったのだが、アプリ版の提供開始が2003年、サービス終了が2006年とその命はあまり長くなかった。

何故かはまあ何となく察しがつく。開発側にしてみたら結局「UO」やってる方ができる事は多いし儲かった、という話なのだ。

根拠は【実装時期未定としてずっと掲げられていたハウジング要素がついぞ来ないままサービス終了した】という点である。いつ来るかいつ来るかと楽しみにして待っていただけに、当時あの待ち望んだ心が報われなかった無念さはよく覚えている。今だにふと思い出すくらい覚えている。

携帯電話のあの小さいディスプレイサイズに合うように狭いピクセル範囲でドットを打ち、家具だなんだとグラフィックやデータを用意して入れ込むのはPC版と勝手が違ったことだろう。「UOM」が提供されていた頃は「ミラくえ」の話でも触れたがまだ『パケット定額制』が広く普及し定着する前の時代だ。携帯利用料金がかさまないようにアプリでやりとりするデータのサイズにも気を配っていたりしたかもしれない。

それだけの手間をかけても携帯版は月額300円。PC版の本家は当時月額1500円だった。「UO」の開発元であるエレクトロニック・アーツが「割に合わないな」と見切りをつけ、ズルズル続けず手じまいしたんだとしたらそれはもうそうだろうね、としか言いようがない。昔の携帯アプリゲーム業界はまだ月額利用料金に上乗せしてユーザーからお金を取るような概念は無かったのだ。

もし「UOM」が無かったら、今「UO」は他のネトゲの後に続いたのだろうか?あるいは先んじたのか?『PC>携帯』だったのが『PC≒携帯』にまで技術が進歩した今だったら、あるいは。たらればを言っても仕方がないのは承知だが、「UOM」の楽しさを忘れられないだけに、どうしても一かけら未練がこぼれてしまう。

 2019年の今、「UO」は基本無料で遊べるようになったそうだ。この知らせに喜びPCのブリタニアに訪れた人もいるだろう。

けれど自分はやっぱり行かないのだ。自分にとってのブリタニアは細々カワイイマップチップので描かれしかの地。それだけでいたいからだ。