手の平の中に、世界はあった。

ガラケーって言葉も無かった頃の携帯電話ゲームとか昔のゲームとか、他なんやかんやを書き残しておきたい、そんなブログです

時代が「カイロソフト」に追いついた日、来たる。

 

kairosoft.net

(公式サイト)

 

 2019年のゲーム業界も賑やかに色々なニュースや話題が飛び交っていたが、その中で個人的にたまげた事象のひとつが、この「カイロソフト」のゲームがゲーム実況の題材として使われたことだった。

 

www.youtube.com

 

例としてはこんな感じで。

ゲーム実況者に取り上げてもらえるという事は、何がしかの魅力を感じて貰えているという証拠なわけで……いや勿論、カイロソフトのゲームに対してその魅力を疑っているわけではない。

驚いたのは、よくよくここのゲーム群を考えてみるとそのゲーム性とグラフィックははるか昔、ガラケー時代の頃からほぼブレずに変わっていない。にも関わらず世の中の方から、この変わらぬ面白さのゲームを提供し続けるカイロソフトを評価する風向きが表面化してきた点にある。

ひょっとすればひょっとすると、これはマリオもポケモンドラクエもFFも、全てを凌駕せしスゴさなのでは?などと思い至ったのである。

1996年創業ともはやすっかり老舗となったゲーム制作会社・カイロソフト。ここのゲームにお世話になった1人のユーザーの視点からその魅力をじっくりと紐解いていこう。

 

○○づくりシミュレーションの金字塔

 カイロソフトの源流は、公式サイトで代表取締役として名前が記載されている臼井和之氏、その人である。

有名なwebメディアである「電ファミニコゲーマー」にて、この貴重な臼井氏のインタビューが2018年に掲載されており、その軌跡と当時の臼井氏の心境などが拝見できる。

 

news.denfaminicogamer.jp

 

文中で「100万の賞金をもらった」とあるが1996年前後の個人ゲーム制作というのはマジで、珠玉の1本を作れたら当時天下のゲーム屋だったアスキーがそれくらいの賞金をくれた、会社側がコンテストを開き受賞者に景気よく現金をくれた、そういう時代であった。この当時からゲームを審査する会社側・実際にプレイするユーザー側両方から高い評価を得ていた臼井氏はつまり、いにしえに名を残せし勇者のひとりであるわけだ。

 臼井氏が個人でゲーム制作をしていた頃から現在に至るまで、カイロソフトのメインジャンルはシミュレーションゲームである。それも一般的なお店屋さん経営ゲームに留まらないユニークなモノを色々と運営できるゲームがズラリと並んでいる。

例えば前述の100万円の賞金を獲得したゲームである「ゲーム発展途上国」はその名の通り、ゲーム制作会社の経営シミュレーションゲームである。たまにやる「このハードでこんなジャンルでこういうタイトルのゲームあったらよかったのにな~!」の空想をこのゲームで実際に形にできちゃうんである。この1タイトルとってもカイロソフトは鬼才のゲーム会社、独特のセンスの持ち主だと言えるだろう。

他にもお寿司屋さん、ラーメン屋、お菓子屋さんといったオーソドックスな店舗経営はもちろんのこと、温泉旅館、プール、ゲームセンター、総合デパート、鉄道、ピラミッドと一風変わった業種も運営できて飽きがこない。

都市系シミュレーションも普通の街・お江戸の町・ニンジャ村・ファンタジーなお城と村と多岐に渡り、街が変われば行き交う住人の内容やサブシステムも変わるので単純な作品数の水増しになっていないのがカイロソフトの丁寧な所であり、どれもとりあえず1度は手に取りたい魅力がこもっている。

 

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ガランとした空き地を賑やかな街へ育てるのだ(画像:「箱庭タウンズ」)

 

 この一風変わった業種の数々で遊べるシミュレーションゲーム、というカイロソフトのウリがゲーム実況界にどうやらウケたようなんである。自分がはじめに目に留まったのはカイロソフト公式さんのツイッター(@kairokun2010)のRTでまわってきた「ゆけむり温泉郷」の実況動画だった。

 

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タイトル通り温泉旅館を運営するゲーム

 

冒頭でも述べたが正直たまげたんである。だって、「今更このタイトルを目にするとは思わなかったから」だ。Switchに移植される前、携帯端末でこの「ゆけむり温泉郷」が提供開始となった初出の年が2009年である。なんなら冒頭の動画リンクで紹介されている「ゲーム発展国++」はこれよりさらに1年前、2008年が初出である。

 約10年前、まだガラケースマートフォンに駆逐される前の時代に生まれたアプリゲームが今をときめく任天堂の最新機種に住処を移し、その先で諸手を挙げてプレイヤーに歓迎されるなどとどうして予見できようか。

そう思って衝撃のまま手癖で考察を深めるうちにふと、気づいた。よくよく考えてみると『カイロソフトっぽいゲーム』という上位互換・下位互換・類似品と呼べるようなゲーム、実は携帯ゲーム界にも据え置きコンシューマゲーム界にもこれぞ!と言えるまでに似通ったゲームは無いと言って差し支えないのだ。

 

『土地』『モノ』『ヒト』の3本柱が魅力を作る

 強いて挙げるならば、「ザ・コンビニ」シリーズや知る人ぞ知る怪作「新テーマパーク」辺りはカイロソフトに似ていると言えなくもない。共通点は店舗内部なり施設の敷地なりの『土地』があり、その中に『モノ』を置き、『ヒト』も配置し『ヒト』が出入りする。

この基本骨子に対して、作品によって『土地』『モノ』『ヒト』のどの要素に厚みを持たせるかでバリエーションを豊かにしているのがカイロソフトの独自の工夫、ユニークな魅力である。

 

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『モノ』に厚みを置いたゲームの1例「創作パティシエ部」

カイロソフトの作品はこの『土地』『モノ』『ヒト』をプレイヤーが能動的に育てられる育成シミュレーションの要素が存在する。ここが他のシミュレーションゲームでは中々同じレベルの面白さを得られない要素だ。

具体的に述べると例えば「ゆけむり温泉郷」は宿泊部屋や施設へ、ゲーム中で手に入れた飲食物やグッズを使用することでその施設のステータスが上がる。パネル上の見た目が同じ部屋であってもステータスの差により「この部屋は豪勢な特別スイートルームなんだぜ」と、自分の中で自分が作った箱庭のイメージを深めて遊んでいけるわけだ。これは『土地』を育てる部類に入る。

『モノ』を育てるゲームとして特に評価されているのは「海鮮!!すし街道」だ。回転寿司屋を運営し寿司を流すレーンの設置や店内レイアウトに苦心する傍ら、提供する寿司ネタにアイテムを使うことで自分が好きなネタを最も美味しい高みまで押し上げる、そんな野望も可能にしたこのタイトルはカイロソフトを知らない者に対してまず勧めたいゲームのひとつとして挙げられる。

「大海賊クエスト島」は結構長く遊び続けた1作だ。海賊船の内部に船員の部屋や敵の海賊団を捕獲しておく牢屋、お宝を保管しておく倉庫といった各種施設をイイ感じに並べていきつつ、海賊としてクエストに挑みモンスターと戦う船員を食べ物アイテムで経験値を与えレベルを上げ、施設利用でジョブ経験値を貯め色んなジョブを経験させていく『ヒト』を育てる要素には随分楽しませてもらった。

 

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いっぱいお食べ

 これらの育成要素が何を生むのか?【狭い愛着】を許容し応えてくれるゲームシステムである。自分の好きなモノにじゃんじゃんアイテムをつぎ込み活躍させることで"自分だけの○○"というお宝を自分の手で育む遊び心地はどのようなゲームであってもプレイヤーの心を掴むのに重要な要素だ。この要素が特に優れているがゆえにファンが飽きず、忘れず、語りたくなる。

こういった経営・運営シミュレーションゲームはいくつものグラフだチャートだを忙しなく見て回るとか、経営が軌道に乗って確実に増えていく売り上げなどの数値を静かに眺めているとか、どうにもマップ全体の流れを気に掛けて見ていくべき構造であったため、作品へ注がれる感情というのは比較的無機質な傾向にあった。これを暖かく血の通ったキャッチーなデコレーションで手に取りやすく、でも中身はシミュレーションらしくほどよい遊び応えのイイとこ取りなゲームに磨き上げた。それがカイロソフトのゲーム達なのだ。

……個人的にその極致にあるのが「こだわりラーメン館~全国編~」ではないかと思って居る。あえて画像は貼るまい。麺からスープから具から自分の理想を追求し倒したラーメンを作れるというこのゲームは単純に『ラーメン屋を経営するシミュレーションゲーム』を考えていては出せない、カイロソフト「らしさ」がよく出たタイトルではないだろうか。

 『土地』×『モノ』×『ヒト』がバリエーション豊かな箱庭の完成形を生む。これがガラケー時代を乗り越えてなお生き残るどころか躍進したとさえ言えるカイロソフトのゲームに潜むパワーなのだ。

 

アイコン、建物、ぴょこぴょこ動くキャラクター……見てて飽きないドット絵

 カイロソフトを語るのであればやはり、ゲームの外見について言及せずにはいられないだろう。先ほどから貼りつけた画像からわかるように2頭身のキャラクターから背景から全てが昔ながらのドット絵で表現されており、これがまた和むカワイさなのだ。

公式サイトの製品一覧から歴史を探るに、このカワイイグラフィックが生まれたのはPC時代、「まんが奥の細道」からのようである。

 

kairosoft.net

 

その初出は1998年。

1998年である。もう20年を超えた過去にルーツがあるなんて時の流れが積もり積もってしまったな……と改めて思い知らされる。

そして、ええと……公式見て……ツイッター遡って……多分、多分間違いなく最新作と思われるタイトルがこちら、「バスケクラブ物語」だ。

 

kairosoft.net

 

はい。

おわかりいただけただろうか。2019年に至るまでこの2頭身を、このドットをカイロソフトはほぼ貫き通したのだ。

ほぼ、とつけたのは唯一この路線から外れようとした意欲作がカイロソフトにはあるからだ。「ともだち芸能舎」というタイトルだったのだが……

 

kairosoft.net

 

当時非常に、それはもう非常にファンから阿鼻叫喚の批判が雪崩を打ってストアページに寄せられていった様をよく覚えている。2015年の時点でもうカイロソフトといえばこういう見た目のゲーム!というブランドイメージがガッチガチに確立していたという証左でもある……のでどうか気を落とさないでいただきたいところである。全く色のついていない新しいゲームディベロッパーのデビュー作品として出ていたらあるいは、この顔グラフィックに抵抗の無いユーザー層が居着くゲームになったかもしれないがいかんせんカイロソフトのキュートな子たちを見慣れてからのこれはギャップが激しすぎたのだ。

 そう、とかくカイロといえばドット、ドットといえばカイロという程にひたむきにカイロソフトのグラフィッカーさん達はカワイイグラフィックを作り続けた。そうしたらば世の中のゲームは技術が進歩し、それに合わせて携帯電話端末ゲームの業界でまでも美麗グラフィックが持てはやされる潮流が発生していった。……が、その流れは同時に、

「映画みたいにキレイなグラフィックは疲れる……スーパーファミコン時代くらいの温かみのあるレトロ感あるドット絵のゲームが欲しいなあ」

という……いや、もっと歯に衣着せぬ言い方をすると、

「ムービーを見たくてやってるんじゃない。グラフィックどうこう言うよりまず【ゲーム】をさせろ!……おっ、このゲーム面白そう。昔ながらのドット絵で硬派なやりこみゲー?イイネ!!」

……といった感じのゲーマー層の需要を生んだのである。実際、ドットゲーは「カジュアルすぎてゲームになってない」はあるが、「ムービーとストーリーが長々続いてゲームをさせてもらえない」はまず起こらない。ドットか否かはディープなゲーマーの試金石として測られる基準という風潮は完全に否定できるものではないだろう。

単純な見た目という点においても、ガラケースーファミ時代よりもずっと細かいドットで滑らかに動くドット絵は近年では『ピクセルアート』と呼び名を変えて評価されている。海外でもドットやピクセルアートで描かれたグラフィックのゲームで人気を得ているタイトルはいくつもある。

ドットは取り残されゆくレガシーなどではない。むしろ時が経とうとも普遍的に愛され、人々の魂に刺さるカワイさを作り出せる伝統技法なのだ。

 ゆえに今回のタイトルはああなったし、冒頭に挙げたビッグタイトルの数々にもこの【変わらなさ】という点は優越していると個人的には思えてならない。

マリオだって初代のあの横にしか向かないドットから3Dへと移行したのだ。他の超大作、超人気シリーズだって精巧なグラフィック、3Dモデルを用いその見た目を進化させた。変わらずにはいられなかった。

カイロソフトは、結果として、事実としてユーザーにお届けするその表の顔、提供されるゲームは変わらず在り続けたのだ。

裏では製作のためのゲームエンジンが移り変わりつつも、20年を超える長きに渡り作品の方向性を保つ老舗の安定感。これがファンを離さず繋ぎ止めながら新しい若いファンを獲得した大きな要因に違いないのである。

 

トボけたテキスト回しとネーミングセンスも触れておきたい

 脱力系の面白さ、とでも形容すればいいだろうか。とにかくゲーム内で喋るキャラの台詞や、そもそものキャラクターにランダムにつけられていく名前もグラフィックに合わせたかのようになんだかおかしくてカワイイのが、カイロソフトのユニークな魅力、そのもうひとつの車輪となっている。

 

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見てくださいよこのネーミングセンス

 

2ちゃんねる(今で言う5ちゃんねる)にはカイロソフトのゲーム全般の話をするスレッドも存在しており、スレタイトルにはこの個性的なキャラクターの名前が盛り込まれるのがお約束となっていた時期もあったほどだ。どれくらい個性的かというと、

・犬塚ポニー

・鎧塚パティ彦

・秘書ひしょ子

……などなど、絶妙に力が抜ける味わい・微妙に時事ネタ人名を触ったり触らなかったりする・ド直球に安直な時もある・なんかひっかかりを覚えるようで、でも脳みそに記憶され切らないようなギリギリのインパクト、というちょっと他に類を見ない方向性なばっかりになんだかクセになってしまうファンが後を絶たない。

 そして、このゆる~い楽しさのテキストや世界観は徹底して作られ保たれているのが大切なポイントだ。冒頭に貼ったカイロソフト公式サイトはご覧になっていただけただろうか?普通の企業なら良く言えば真面目、悪く言えば無味乾燥な見た目が一般的だろう会社情報のページでさえも、丁寧にカイロソフト節が唸る文章が書き連ねられている。

『真面目に不真面目』という言葉がある。ルーツまでは知らないので今調べたところ有名児童書シリーズ「かいけつゾロリ」からきているらしい。つまりはこういうことだわな、と膝を打った。子供から大人にまで愛されるもの、広く長く愛されるものは『真面目に不真面目』ができているから面白いと評価されるということだ。

ゲーム中のイベントでキャラたちが喋る台詞の数々もキリがないほどユーモアたっぷりで面白いのがカイロソフトのいい所。できれば実際にお手に取ってその目で確かめていただきたい。

 

価値あるディベロッパーに【なった】ということ

 かつて、カイロソフトのゲームは月額300円で複数タイトル、遊び放題で遊べていた。時が経ってゲームそのものの価値、開発費、物価と様々なものが変化していった結果、今やこの価格はSwitchだと単一タイトル1本売り切りで1500円というお値段になっている。

あの頃を覚えていると、正直高くなったなぁと思ってしまう。が、あの頃を知らない若いゲーマーからしたらこの価格は高くもなんともないのだろうし、昨今のゲームの価格事情をちゃんと考えていくと、特にスマホのソシャゲで10連ガチャの価格があれくらいだから……なんて考えていったらこの価格はまったく妥当、寧ろ1度買えばプレイ時間がどれほどになるかを考慮するとお得と言ってもいいくらいだろう。そう思えるようないっぱいの面白さを詰め込んだゲームを作り続けたカイロソフトの、地道で誠実な積み重ねがこれからの時代でもっともっと評価されて誰もが知るようなゲームメーカーにぜひとも登りつめて欲しいものである。

 

 まさに当ブログタイトルのような、手の平の中にあったいくつもの箱庭世界が今あのTVの液晶モニターで広々と伸び伸びと造られている様は、良くないニュースも色々聞こえてくる日本ゲーム業界の中に差し込む一筋の希望と幸福の光であるように思えてならないのだ。

今も昔も、面白いゲームは面白い。カイロくんのフォルムみたいに、簡単なお話だ。