手の平の中に、世界はあった。

ガラケーって言葉も無かった頃の携帯電話ゲームとか昔のゲームとか、他なんやかんやを書き残しておきたい、そんなブログです

「ミラクルくえすと」の世界に生きたとある冒険者の回顧録

「携帯でゲームを遊ぶ」楽しさの個人的ルーツ

 昔々、20年ほど昔の話。スクウェアエニックスはまだ合体しておらず、沢山のゲームメーカが元気にゲームを作っては世に出していた。

とても古い話だ。(平沢進)

桃太郎電鉄」や「ボンバーマン」といった人気タイトルで名の知られたハドソンが2000年ごろに、1つのオンラインPRGのゲームを創りだした。それが今回語るゲーム「ミラクルくえすと」である。

 今、Googleなどで検索をかけると「ミラクルくえすと~どこでもダンジョン~」というタイトルが掘り出されてくる。

が、今話している対象はコレ【ではない】

この「~どこでもダンジョン~」、長いので略して「どこダン」とサブタイトルがついている方は2008年ごろ、基本無料・ガチャ課金の方式がすっかり浸透した頃にシーエー・モバイルという会社と共同で提供していたいわばリメイク版である。

 そのリメイク元、本家がサブタイトルの無い「ミラクルくえすと」なのだが、こちらの情報や画像の類は探しても殆ど出てこない。

何故なのか?答えは簡単だ。20年前は今じゃお馴染み、当たり前に使っているWikipediaGoogleもあの頃はまだ誰もが知る超有名サービスではなかったからだ。

ユーザー間のコミュニケーションはゲーム内とゲームを提供するメーカーが公式に建てたサイト、攻略情報の集積は「魔法のiらんど」や「フォレストページ」で個人有志がサイトを作り掲示板などを設置して集める。そういう時代に存在していたのが「ミラクルくえすと」だ。

恐ろしい話である。あの頃確かに存在していたその遊び心地を覚えているのに、ネットではタイトルも内容もほぼほぼ同じだが確かに違う「どこダン」の方しかヒットしない。自分の青春時代を彩ったゲームはメーカー公式サイトが閉じ、個人サイトが時代の流れに晒され風化して消え去ってしまったことでまるで最初から居なかったかのように見える状態になってしまった。

「ミラくえ」を尋ねているのに「どこダン」ばかりに行きあたる。あたかもよく似た平行世界に気付かぬうちに迷い込んで、細かな知識や認識のズレからその事を認識した瞬間のような、ぞわっとした怖さと虚無感がないまぜになったような心地がした。

  そんなフィクションめいた恐怖と、「あの子のことを誰も覚えていないなんて嫌だ!あの子がいた証を俺が世界に刻むんだ!」などとどっかにありそうなノベルゲーの1文みたいな使命感でこの記事を、このブログを書くことにしたわけである。そうすればこの恐怖は少しでも払拭できると思ったからだ。

前置きが長くなったが、「ミラクルくえすと」略して「ミラくえ」がどんなゲームだったかをぼちぼち説明していこう。

 

日本によく似た世界で魔王を倒す旅に出る

 はじめに述べたように、「ミラくえ」のジャンルはオンラインRPGである。

現実の日本に似た地形と地名の街が各地に存在する「ミラクガルド」という地をプレイヤーは戦士や魔法使いといったファンタジーにお馴染みのジョブに就いて冒険する事になる。

冒険者となって何をするか?という最終目標はハッキリしており、『魔王オヤジーンの討伐』を達成すれば一応のクリア、ということになる。

魔王討伐の大目標のためには、ミラクガルド各地を巡って『蜂像』というアイテムを集める必要がある。これが中目標であり、蜂像を得るためには例えばカン・トゥー(関東)地方だと『7色の温泉玉子』をコンプリートするのが条件となっていて、条件を満たすためにこなすクエスト群が小目標となるわけだ。

小目標→中目標→大目標のロードマップがきちんと整備されていた、という点はひとつのポイントだ。昨今のオンラインのスマホゲー・ソシャゲでメインストーリーにしっかりとした区切りをつけて作り上げている作品は偉い・頑張ってると言われる風潮にあるが、2000年ごろの時点で”最後まで作ってあって偉い”ゲームはもう実在していた、という点ははっきりと証言させていただきたい。

 

我々は本当に冒険者で旅人だった

 各町に存在する酒場からクエストを受けて成功させるべく町から町へとプレイヤーは渡り歩いて行くことになるのだが、当時らしいシステムとして町への移動は現実の時間経過を必要とし、移動先を決定したら一旦アプリを終了させて待ち、到着すると携帯にメールが来る方式だった。

所要時間は(確か)現実の電車に寄せたバランスで設定されてあり、カン・トゥーの中心地でありプレイヤーが最初に降り立つ地、ニジュ・サンク(二十三区)から隣町に移動するなら2分で着くが、トゥー・ホーク(東北)地方ともなれば近くて30分、リストにある一番遠い町へと一気に行こうものなら数時間かかる事さえあった。

武具・防具を売るショップにも現実時間を関係させ、「タイムセール」のシステムを設けた。特定の曜日と時間、特定の町に限定アイテムが並ぶいわゆる裏メニューみたいなものなのだが、このタイムセールを思い出すたび、深夜ど真ん中に”該当職業であれば絶対装備したい武器”を出してくるタイムセールがあったのでわざわざタイマーアラームをかけてまで購入したというエピソードが脳裏によみがえる。

 この待たなければいけないもどかしさは自分が操作しているプレイヤーが『旅をしている』感覚をかえってリアルに体感させていた、魅力に転化できていたなと当時楽しんでいた自身を振り返って思う。遠出をするなら戻るハメにならないよう入念に準備をする、行った先に何があるか先人が得た情報があるならしっかりリサーチする、着いた先の酒場で時にはちょっと一杯ご当地カクテルをひっかけながら(このゲームには年齢の概念もあり、20歳以上であればお酒が呑めるのだ)、提示されるクエストを確認し今の自分に相応しいものを吟味する。

あの頃の自分はD&Dに出てくるような一介の冒険者のような振る舞いをして、ゲームの中で暮らしていたんである。楽しかった。

 

 こんな時間のかかるつくりをしていたのには理由がある。

20年前、2000年問題だとかミレニアムだとかで世間がザワザワしていた頃だ。

この時代はパケット定額制という携帯料金システムがまだ存在していなかったのである!!!(集中線)(ビブラスラップ)(wikiによると定額制が世に出だしたのは2003年ごろ)

なので当時は1度ダウンロードすればあとは起動時の確認程度に通信が入るくらいの落としきりタイプのRPGが多く、人気だったし、逆に頻繁にデータをやりとりするようなアプリは人によっては忌み嫌って避けていたほどである。しかし「ミラくえ」はオンラインRPGである以上通信頻度はどうしても多くなる。さりとてプレイヤーには「ミラくえ」にどっぷりハマって欲しい。けれど「ミラくえ」を愛してくれる人ほどパケット通信料に悩まされる事になるのはよろしくない……。

このジレンマをある程度解決するカギが『待ち時間の発生するゲームシステム』だったのではないかと今になって推測している。敢えてボトルネックを作ることでパケット通信の回数をゲーム側の方から絞って減らし、パケット通信料がヤバいので次月まで携帯使用を自重した状態である「パケ死」に対して配慮をしたわけだ。

その功名としてクエストの方にも『1回アプリを落として2時間以上待つと進展する』や『1時間きっかり経過させて箱を開ける』、『特定の時間帯でないと受けられない』といった時間を使ったギミックでクエストのバリエーションを持たせられるメリットもあった。

今のゲームと比べると手間がかかって面倒だと思われるだろうが、当時はこれで最先端、新しいゲームだったのでプレイヤー側としても手間がかかるのは「仕方ない」と割り切れていた、そういう時代だったのだ。

 

個性的&魅力的な酒場の店主 トボけたユーモアの敵とアイテム
  ハドソンというと、「サラダの国のトマト姫」や「PC原人」、「高橋名人の冒険島」などのコミカルで愛敬のあるグラフィックが特徴的なメーカー、というイメージがある。あと「桃太郎伝説」から脈々と続くダジャレ好き。
「ミラくえ」はそういった『ハドソンらしさ』で出来ていた、と表現して差し支えない。
現実日本の県庁所在地にあたる町の酒場には固有グラフィックの店主がそれぞれ存在しており(そうでない町はグラフィックの出ないいわゆるモブである)、お気に入りの店主の居る町をなんとなく拠点にするプレイヤーの話はコミュニティの中でよく聞いたものである。
最初に出会うニジュ・サンクの看板娘・キャサリン嬢はもちろん大人気であったし、ツー・ツー・ツー(津が元ネタ。三重県は津市の事である)の店主・ルークは長いハチマキをなびかせるいわゆる勇者然とした外見の好青年で、彼にまつわるクエストもあったりして公式からもプッシュされているような「ミラくえ」の顔の一人だった。
他に人気の店主は男性プレイヤーだとミ・トー(水戸)の魔法少女チェルシーちゃんや、ギ・イーフ(岐阜)の包容力たっぷり・主婦店主のヨシ江さん。
女性プレイヤーはナル・ラー(奈良)の真っ白聖職者のイケメン・ビショップやセン・ディー(仙台)の独眼龍・伊達さんなどが人気が高かったように見える。
非人間の店主も皆ユニークで、ト・トーリ(鳥取)は何故か三つ編みツインおさげの雪ウサギ・オジョウサンが酒場を切り盛りし、キー・オト(京都)の酒場の主・ちーちゃんはトップ女優のカワイイ羊さんなのですメェ。
 このようなノリでモンスターも個性やネタ、当時の時事ネタをちりばめた奴らが横行していた。
ウサダヒカル。当時人気だった歌姫・宇多田ヒカルの髪型をした雪ウサギ。
マイムマイム。白い人間のピクトグラムみたいなのが手を繋いで並ぶ脱力系雑魚敵。
鍋奉行。この言葉、2000年あたりに何かジワジワと流行り出して後にモバゲーのミニゲームなんかでもネタにされていた。遠山の金さんみたいな裾ズルズルのチョンマゲ男が箸と取り皿をもった出で立ちの敵キャラである。
叶姉妹のパロディモンスターや○○心というハート型で子供やおばあちゃんの顔がついた敵など他にも色々……精霊やドラゴンといった普通の敵ももちろん居はしたのだが、印象に残るのはやはりどうしたってどうかしているポイントのあったキャラにならざるを得ない。
 アイテムの方も薬草や聖水といったスタンダードな物もあったが世界観に足並み揃えたヘンテコな品々が山盛りで、アイテム名だけ見ても効果がよくわからないどころか説明を見てもよくわからないので使って確かめてみよう、となる品も少なくなかった。このわかりにくさは面白さ優先でプレイの快適さはなおざりになっていたな~という、当時から抱いていたちょっとした不満点である。
ゲルニクス。名前だけではコレがなんなのか想像しにくいがアイテムイラストを見ると完全にお餅。そこそこHPを回復してくれる上に1個で複数回使えたので、多くの冒険者が携帯していた。ミラクガルドにおける干し肉ポジションの地位に座していたアイテムだった。
綿鍋。金属製っぽい両手鍋からはみ出る白い綿。使うと綿が水を吸うように、という事なのか敵へHPドレインを仕掛けられた。
なんと9800円。通販系でお馴染みの文言である。戦闘中のみ使えて敵を倒して貰える経験値・お金が倍に増える効果があった。
欠陥住宅。使うと住宅が崩れて敵にダメージを与える攻撃アイテムである。
武器・防具も語り尽せぬほどネタが豊富でキリがない。RPGであるからして装備し常用できるものは性能が優れている一部の品に収束はしたが、クエストで何かを買ったり預かったりして他の町に配達する依頼は多かったので埋もれっぱなしのアイテムというのは思っているより少なかったような気がする。
このゲーム制作側からのちょっとした手回しというのが愛された秘訣のひとつ、今になっても忘れず覚えていられた秘訣のひとつだったのだろう。
 
ゲームスタッフとプレイヤーとの繋がり
 「ミラくえ」を語る上で欠かせない要素として、公式サイトのコンテンツ「ミラく絵日記」の事にも触れておきたい。
要は公式スタッフの一人がプレイヤーからのお便りやゲーム内の情報・攻略を取り上げて語るコーナーであり、公式運営と近い距離でやり取りができる機会として当時とても喜ばれていた。
初代担当の名前は今もはっきり覚えている。【まーちゃん】さんという人であり、温和な物腰で平日毎日お便りを取り上げ、各種インフォメーションをお伝えしてくれる【まーちゃん】さんはゲームのマスコットめいた人気を獲得し、プレイヤー達もなんとなく「こんな良いスタッフさんがいるゲームだから楽しいなあ、このゲーム遊んでよかったなあ、ずっと遊んでいたいねえ」と暖かい気持ちになっていた、そんな空気を感じ取れていたと思う。
何度か自分の投稿を採用して貰えたのは、小さくひそかな自慢である。
「ミラく絵日記」は時折各地の酒場主人が担当してくれる回もあり、そのキャラらしい返答やニュースの伝え様をつぶさに読み取って よりキャラへの理解と解釈と好意を深める事ができた。
 「どこダン」は「ミラくえ」の人気を当て込んで2008年に再び世に出しはしたが、「ミラく絵日記」のような運営側の発信という要素は引き継がなかった。
末路としては3年ほどで「どこダン」はサービス終了となったのだが、長くもたなかった理由の1つとしてはおそらく「ミラくえ」を懐かしんで集まったプレイヤーが気づいてしまったのだろう。「ミラく絵日記」から伝わるスタッフの暖かい情熱も重要な「ミラくえ」の魅力だったんだろう、と。
残酷な言い方をすれば、1周前の古めかしいつくりのゲームが無感情に基本無料・課金ガチャのテンプレで金をせびったところで思い出補正だけで儲かり続けるなんて甘い話は無いよ、という事だ。最短半年撤退コースではなかった辺り、思い出補正の恩恵自体は無くはなかったとは思うが。
 
かくて冒険の書は閉じられた
 良いゲームであったとは思う…というか今なお思い出に浸って良いものだったと信じているが、この良さはまだ世の中の色んな部分が未発達で不自由だったから良く見えていた、という部分も大きかったのが実情だろう。なので、何も今ふたたび「ミラくえ」を掘り起こして遊べるようになりたい、などと欲張った事を言うつもりは無い。
ただ、時代が流れ「役目を果たした」ような過去の英雄めいたスタンスで「ミラクルくえすと」の事を昔遊んだよ、楽しかったよね、と思い出して語り継いでくれる人がこの記事で1人でも増えてくれたらな、と心より願う。自分の頭の中に記憶された「ミラクガルド」の冒険譚が、真実存在していたんだと安心するためにも。よろしくお願いします。