手の平の中に、世界はあった。

ガラケーって言葉も無かった頃の携帯電話ゲームとか昔のゲームとか、他なんやかんやを書き残しておきたい、そんなブログです

「MyLove.」 ―愛さえあれば何も要らない。 ……本当に?

 

【肉欲を伴わずして愛は成り立ち得るか?】

 

 この壮大な問いを題材としたゲームが、かつて韓国で作られ一部のゲーマーの間で話題になった。

Tomak」というタイトルのそれは、心さえ繋がればいい……そんな清い愛が存在すると証明するべく女神が首だけの状態で人間界に降りてくる、というアクセルベタ踏みの設定を引っ提げて人々の前に現れた。

―――そこから約15年の時を経て「MyLove.」の情報を目にした時、自分は必ずプレイすると決めたのだった。

 

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https://play.google.com/store/apps/details?id=com.zxima.mylove

 

首どころか脳だけの『彼女』と、夫婦として暮らす。

いっそ感動すらした。この題材を個人ゲーム制作者が手に取ったという事実は自分を惹きつけるには充分すぎた程だ。

合同会社ズィーマことじぃーま氏(@somebow_ippan)製作のゲーム、「MyLove.」。これは、究極に美しく重厚な、【愛】の物語である。

 

マイスウィートホームに侵入する輩を叩き出すディフェンスゲーム

 前前作「Time Machine」は仕送り物品を選ぶだけ、前作「DropPoint」は修理・お弁当選び・武装選びとタップひとつで済ませられるカンタン手軽な操作が特徴的だった。

「MyLove.」はじぃーま氏の提供するゲームの中で随一のやる事が多いゲームだ。

2人の愛の巣は古い研究所。ポストアポカリプスシリーズ3作目となる本作もやっぱり文明は終わっている。暴走した機械やミュータント、それらを掻い潜って何かお宝が無いか潜り込む遺跡荒らしが、我々現実世界のセールスマンなどとは比べものにならない苛烈さで侵入して来ようとしているのだ。このけしからん侵入者どもから愛する妻を守るべく『あなた』は防衛機構を操作し追い払う、これが本作のメイン操作部分になる。

 

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ホームセキュリティはしっかりと

 

 侵入者に対してプレイヤーはカミナリ装置を操作してカミナリを落として無力化する。すると機械や人は動かなくなるので放って置くか、画面右上の口みたいなところに動かなくなった輩どもをスワイプして持って行くと「あーん」して飲み込んでくれる。チンタラしていると敵は体当たりや銃撃でドアをブチ破ろうとしてくるので早め早めに迎撃していこう。

敵が多く来ると、撃つ→「あーん」する→撃つ→「あーん」する、のサイクルがとても忙しなくなるのでアップグレードで優先して自動砲台の「うちべんけい」と、倒した機械エネミーを自動で飲み込み回収してくれる「たべるくん」は取得しておくと楽になる。

ある程度の量敵を倒すと出てくるボスの対処や敵を攻撃すると出てくるネジの取得、家に戻っての各種兵器・システムのアップグレードなど、全体通してプレイヤーがやるべき事・やった方が良い事は多い。無料でしっかりしたゲームをやりたいという人にも本作はオススメしていける作りと言えるだろう。

 

彼女は中身が美しい(物理的な意味でも)

 今作のキャラクターである通称「脳嫁ちゃん」は実際カワイイ。脳を収めた培養槽に繋げたコンピューターで彼女は意思疎通を取り、顔が存在しないのでディスプレイモニターである程度の感情を露わにする。それだけの表現なのに彼女は確かにカワイイし、キレイな心の持ち主であると感じ取れるからじぃーま氏はすごいなあと言うしかない。

そしてそんな「脳嫁ちゃん」に主人公の『あなた』は一目惚れした、という設定を叩きこんだのは更にすごい。前作のエンジニアを軽々超えてクレイジーだぜ……。

 

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はぁ~カワイイ

 

 言葉通り手も足も出ないもどかしさに悩む一面も見せる彼女だが、とにかく健気だ。

オープニングの時点で『あなた』を気遣う言葉をかけるし、侵入者撃退の際は精いっぱい応援してくれる。本作はメニュー画面から「おはなし」の項目を選んで能動的に彼女と会話しに行かないとじぃーま氏が丁寧に仕込んだ会話テキストを堪能できないのだが、これが中々悪くない。自分から構いにいくからこそそれに応えて脳にまつわる豆知識やゲームのコツを教えてくれる脳嫁ちゃんのカワイさが引き立っているように感じられる。愛されるばかりではなくこちらから愛してこその夫婦、という事なのかもしれない。

ボスを倒すと倒したボスに応じて彼女に贈れる【プレゼント】が手に入るのだが、贈る度に無邪気に全力で喜んでくれるその反応がカワイイ。カワイすぎる。【プレゼント】はどれも崩壊した文明において貴重品であり青天井の価値を持つ品であるため、彼女は贈り物を喜びつつも「これ、売った方がいいんじゃないの?」と家計を心配してくれる。

でもいいんだ。キミの喜び、プライスレス。例えシステム上限を超えられる程の物理的リターンがあったとしても売却は選ばない、選べない。売る方のテキストが見たくて選ぶ人ももちろん居るだろうがとりあえず自分は無理です。夫婦仲を冷やすなんて自分にはできない。

そして、この優しさ・心の美しさは後述するが『あなた』に対してのみではない、というのが彼女の美しさに説得力を持たせ、このゲームの話のキモとなる。徹底して完璧に美しい精神を持たせた事には意味がある。

 

これだけの瑕疵なき完全なる愛が手の中に在るからこそ、2人の辿る末路、そのエンディングを選択していく行為に重みが出る、という事だ。

 

 愛の前に譲るのか?貫くのか?

 オープニングの時点で『あなた』はひとつの目標を口にする。

 

【キミの身体を再生する】

 

これが、本作におけるクリア条件だ。その過程として「脳嫁ちゃん」の身体に使う素材を集める事になる。どこから集めるのかというと、侵入者から巻き上げるのだ。無力化した敵を「あーん」する事で「あーん」した先、「イブクロ」で飲み込んだ対象を分解する。

機械生物であればそのまま機械部品になり、人間は―――『ニク』になる。(※「あんぜんそうち」をアップグレードで設置すれば身に着けてるものだけ引っぺがしてわずかな機械部品が貰える)

生体部品、と言い換えるのは自由だが、生きていた人間の息の根を止める行為である事には変わりない。そのような行為を完璧に美しい精神の持ち主である「脳嫁ちゃん」がどう思うか?彼女は自分の安全を脅かす輩に対しても「残り少ない人類だから」とわざわざカミナリ装置でシビれさせて外へ叩き出す、という人道的な行為で良しとするほど優しくてお人よしだ。気分のいい話にならないのは容易に想像がつく事だろう。

機械か、生身か。不殺か、殺戮か。本作では最初からプレイヤーにヘビーな2択を突きつけてくるのだ。

 

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彼女に与える愛の形は『あなた』次第

 

機械の身体で彼女を自由の身にすれば彼女は罪悪感なく喜んで『あなた』と共に生きるだろう。しかし繋ぐ手はどこまでも硬質で冷たい。

血の通う肉体を彼女に与える事ができたなら、あるいは子を為して家族を、未来を築くことも可能になるだろう。しかしそれは数多の未来をすり潰した屍の山の上に成り立つ未来だ。

では機械と生体のハイブリッドなら?

それはどちらにも振り切れなかった選択であり、相応の結果が返って来るだろう。

このゲームのエンディングは言わばこのゲームの主人公の『あなた』を通し、プレイヤーである【あなた】の愛の有り様を映す。何も知らない一番最初の1周目はまさに、

 

「MyLove.」→己の愛

 

を、問うてくるゲームだと思ってほしい。

自分が彼女にしてあげたい、与えたい愛。彼女が自分を想い気遣う、受け取って降り積もる愛。

どちらに天秤の皿を傾け進んでいくのか?ぜひ考えながらプレイしていってみよう。

 

 

 

 犠牲無しに彼女に生身の身体を与えられないなんてあんまりだ、と思った人。

安心していただきたい、じぃーま氏のポストアポカリプスは一貫して最後には暖かく、優しい。

完全無欠のハッピーエンドを心から欲して祈り、縋ればいずれ願いは聞き届けられるだろう。愛を紡ぐ物語はやっぱり、最後には『めでたし、めでたし』で終わるべきなのだ。いつだって。

 

今作の課金要素

 やる事が多いだけに買い切りの課金要素でプレイが楽になる要素が今作はいくつも存在する。

エンディング周回のために『つよくてニューゲーム』による兵器等アップデートの持ち越しは強く推奨したい。とにかく1周目何も無い状態からの防備を整える立ち上がりが手間だし小忙しいのでそこをスキップできると快適性が大分違ってくる。『エンディングのヒント』もあれば便利なのでエンディングかぶりで周回を無駄にしたくないな、と思ったら購入するといいだろう。

本作も課金に応じて「脳嫁ちゃん」が色々喋ってくれるのでそれだけでも価値がある……のだが。「MyLove.」の課金要素に関して個人的に1点だけ残念に思った事がある。

それは『キャラクターずかん解禁』の存在だ。侵入してくる敵の情報テキストとボスのプレゼントドロップ情報が閲覧できるようになるのだが、ここのテキストもじぃーま氏の言語センスが光る良いものである。

良いものであるだけに、完全無料の状態ではこれを見られないというのはなんだか損するような気持ち、すなわち『無料の状態はゼロで課金してお布施をするとプラス』ではなく『無料はマイナス、課金でゼロまで埋め戻す』形になっているのが少しだけ悲しいなあと思ってしまった。

そんな事言いつつも買ったんですが。今までのじぃーま氏のゲームと今作の面白さを思えば『キャラクターずかん解禁』220円のお布施は実際良心的価格だ。こちらも推奨と言わせていただく。ユルく面白いテキストを隅々まで堪能し尽して欲しい。

 

 ポストアポカリプス+ラブストーリー=ユニークな面白さ

 これだけ美しく深い愛の物語でありながらゲーム部分は鉄と血と埃と火薬の匂いがしてそう、というのがつくづく個人製作らしい尖り方・要素の盛り合わせ方をしていて面白い。これだからじぃーま氏のゲームはチェックせずにはいられないのだ。

 これを読んだ未プレイの人はぜひ1度、「脳嫁ちゃん」との甘い生活をスタートしてみてはいかがだろうか。

 

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今作にはカレーが無いのでナマステではない

 

彼女の言葉に甘えてエンディングに向かわず愛する2人はいつも一緒、閉じた世界で静かに過ごすのもまた、ひとつの愛の形であるだろう。

結構いいもんですよ、器量の良い妻に気遣われて甘やかされる暮らしも。