手の平の中に、世界はあった。

ガラケーって言葉も無かった頃の携帯電話ゲームとか昔のゲームとか、他なんやかんやを書き残しておきたい、そんなブログです

「リトルボムガール」は文学

 

 インターネットの大海で生まれ定着した名言・スラングの中のひとつに

CLANNADは人生

というものがある。

これは、真に魂に響く作品は万の言葉を尽くそうとも語り切れるものではなく、いっそたった二文字の熟語に想いを込めるという形の方がかえって良さが伝わるものだという、一種の表現の極致である。

この偉大な先人に倣い、今回はまず言わせていただこう。

 

『リトルボムガールは文学』である。

 

 

 

定められた終わりへ向かう物語

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https://play.google.com/store/apps/details?id=com.zxima.littlebombgirl

 

 じぃーま氏(@somebow_ippan)のゲームと言えば『優しく暖かいポストアポカリプス』だが、本作はちょっとだけ毛色が違う。

タップしてゲームを始めるとまず最初に謎の物体がAI起動シークエンスなるものを行いだす。するとそこには手足の無いトルソー状態の女の子の姿がホログラムとして映る。なるほどこれがその「AI」とやららしい。見聞きする感じまるで普通の少女みたいだ。

遠隔で通信してきた、主人公を知る男の口から明かされるこのゲームのゴール地点は、「目の前にある爆弾のAIに教育を施した上で敵国をその爆弾で攻撃する事」である。国という形が存在している程度の文明がある世界というのは地味に珍しい。いつも大体そういうのが跡形も無く根こそぎ無くなった後の話なのに。

かくして爆弾の「先生」となった主人公はAIの「爆弾ちゃん」を、通信相手の男……というか男の上についてるお偉いさんからの定期テストをクリアして優秀な爆弾へと育てるべく"授業"を行う。テストをクリアできないとその時点で爆弾は投下されゲームを終わらされるが、だからってテストをクリアし続けても最終的には爆弾は投下される。これは絶対に変わる事はない。引き延ばす事はできる。でもエンドレスにはできない。いつか来る"その時"のためにすべき事をしなくてはならない、この情緒に溢れた設定のすごさは文字に起こすだけでは伝わりにくいことだろう。

本作は今までのじぃーま氏のゲームには無かった【絶対の別離が横たわる物語】なのだ。

 

爆弾ちゃんがカワイくて世界が爆発しちゃいそう

 【絶対の別離】のほろ苦さを引き立てるには、別れを約束された相手に対して好感や愛着を抱かないことにはどうしようもない。どうでもいい相手と離れ離れになったってそこにドラマは生まれないのだ。では少女の顔をしたホログラムAIの爆弾ちゃんはどうなのか?正直にハッキリ言ってやろう。

 

カワイイ。

ハチャメチャにカワイイ。

触れない?四肢が設定されていない?何か問題あるかね?

個人的にはじぃーま氏の作りだしたキャラの中でいっちばんカワイイと!!!思っています!!!

 

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最初からコレだもん。カワイイ…

 

あんまり賢くないような感じの、あどけなくて表情もコロコロ変わって楽しくなければむくれて照れれば頬を染める、その仕草が全体的に非の打ちどころ無くカワイイが、自分が一番最も素晴らしくカワイイんだよとハートを射貫かれたのは、上の画像にあるように爆弾ちゃんは主人公を「せんせぇ」と呼ぶ点だ。

「先生」ではなく「センセイ」でもなく「せんせー」とかでもなく、「せんせぇ」。

この表記ひとつで舌っ足らずでちょっとあざといカワイさというのがよく伝わる。じぃーま氏の腕前が光っているのを感じて欲しい。

 こうしたカワイイ・カッコいいなどの【キャラクターに魅力があるか?】はシミュレーション系、ストラテジー系のような個の無いゲームジャンルで無い限りはおろそかにせず考えておかねばならない要素だろう。キャラが魅力的だからたくさん一緒にいたくなり、幸せにしてやりたくなり、結末を見届けてやりたくなる。

じぃーま氏のゲームはどれもその点が非常に良くできている。皆素敵で、皆カワイイのだ。その極致が爆弾ちゃんと言っても過言ではないだろう。なるほどこれが無機物萌えってやつだな!

 

「せんせぇ」と爆弾ちゃんの物語をプレイヤーは観ている

 「Time Machine」の頃はゲーム内の主人公という存在はシンプルでありどんな存在か情報は出てこず、主人公はそのままゲームを操作するプレイヤーと同一と言ってよい構図になっていた。

そこからいくつかの作品を経て辿り着いた本作では主人公である「せんせぇ」はプレイヤーとはきっぱりと別の存在として描かれている。

というのも、授業を進めていくと判明するのだが爆弾ちゃんと「せんせぇ」はそれぞれひとつの秘密を抱えているのだ。

 

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そうなんだよ。あと爆弾ちゃんのその口癖もカワイイねぇ

 

ネタバレなのでもちろんハッキリとはここでは書かないが、正直爆弾ちゃんの秘密はプレイヤーの想像のつく範囲の秘密であるのだが、「せんせぇ」の秘密が初めてオープンされた時、「じぃーま氏のゲームの中でも結構シリアスな話だなこれ……」と思わず唸ってしまった。

そしてその秘密が存在する以上、プレイヤーは「せんせぇ」にはなりきれない。きっぱりと剥離しているのだ。「せんせぇ」の秘密は「せんせぇ」と爆弾ちゃんだけが共有できるものとして扱われるのがプレイしていると見てとれることだろう。

この秘密がマルチエンディングである本作のエンティング条件にも大きく影響を及ぼしている。迫る爆弾性能テストの期限の中で、1人の男と1つの爆弾が抱えた秘密に対してプレイヤーはどういう結末へ導いていくのか?というシリアスな緊張を味わいながら、爆弾ちゃんへ施す総数99の授業を通した彼らのやりとりをテキストで読んでいく。

授業では選択肢が発生するので単純にテキストが99本あるわけではなく、実際はもっともっと分岐する分、文の量は豊かだ。今までのじぃーま氏の制作したゲームの中でもぶっちぎりでテキスト量は多いと思われる。

 

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授業の選択肢はこんな感じ

 

形こそアドベンチャーゲームと銘打たれているが、「リトルボムガール」はこのたっぷりの文章量によって、ひとつの小説のような、あるいは映画のようなものに仕上がっていると言ってもいいくらい本作はストーリー性が高く、遊びごたえ・読み応えを強く感じられる。

今回のタイトルにもしたが、「リトルボムガール」は文学である。

「DropPoint」のロボット君との疑似親子めいた関係も中々に文学であったが、今作はそれ以上に文学だ。授業の中で交わす言葉の端々に爆弾ちゃんの心境がほんのり滲み出る瞬間の、AIでありながら情緒あふれるその精神性はある種の美しささえ感じる時があった。

 そしてストーリー性が高いからこそ、声を大にして主張したい事がひとつある。

 

「リトルボムガール」は必ず、必ず!ベストエンディングを!見よ!

 

本作の割と大事なところなので文字サイズを大きくして主張してみた次第である。

これもネタバレもネタバレなので遠回しに語らざるを得ないが、本作に限ってはベストエンディングまで至って初めて1つの物語の終わりとして幕を降ろせる。そういうものになっていると感じられるストーリーだ。マルチエンディングの中にはこれはこれで、という終わり方をするエンドもあるが、他のエンドや今までの授業は全て此処に至るための過程だったのだ、と合点がいく、「リトルボムガール」のベストエンドはそういう物語なのだ。

過程を経て辿り着いたあの『最後のテスト→エンディング→ラストシーン』の一連の流れには、スペクタクルなカタルシスが在った。やったぜ、やってやったぜと言ってやりたくなるような喜びと達成感があった。

本作は色々従来のじぃーま氏のゲームとは毛色が違う部分も多いが、その紡がれた物語は最終的には暖かく、優しいものであるというこの1点は決して変わらない。

Time Machine」のベストエンドを初めて見た時にも胸がじんとする感動がそこに在った。が、「リトルボムガール」はその感動と共にはっきりと開放感というものをそこに感じ取った、そんな感覚がした。

爆弾である意味も、女の子のAIであった意味も、「せんせぇ」であった意味もきちんと其処にあり、回収され活かされるじぃーま氏のストーリーテーリングが本作の味わい所のメインであるのでぜひじっくりたっぷりと堪能していただきたい。

「こういうのが見つかるから個人製作のゲームに注目するのを止められないんだよな」と改めて思い知らされることうけあいだ。

 

今作の課金要素

 「リトルボムガール」はじぃーま氏のゲームの例に漏れず基本無料で全て遊べる。ただでさえ良心的なのだが今作の課金要素のラインナップは実はちょっと少ない。

任意ではない広告が出ないようにする『広告オフ』と純粋な『投げ銭』は説明を割愛するとして、今作はマルチエンディングなので「ポストアポカリプスベーカリー」では一旦お休みだった『エンディングのヒント』が復活、これはヒントを見るのに課金無しだと都度広告動画を見る必要があるところを省ける。

爆弾ちゃんとの授業は選択肢によって爆弾力・ラブ度・人間性の3つのパラメータが増減するのだが、この授業によるパラメータ変動の効果をアップさせる『いつでも授業の効果アップ』と、選択肢の結果が思わしくなかった場合に広告動画を見てその授業を受けなかったことにする『いつでも授業やり直し』。この2つは無課金でもできなくはないが行うたびに広告動画の視聴が必要で、課金することで視聴の行程を省けて文字通りいつでも手軽に恩恵を得られるようになる。

そして今回の最オススメ課金要素の『テスト11時間ごと』は本来爆弾ちゃんの性能テストは8時間、授業8回ごとに行われるがこれが11時間、11回に伸びるというもの。単純に授業回数が増えれば性能テストに必要な爆弾力のパラメータを稼ぎやすく、爆弾力が伸びないような授業や選択肢を選びやすくなりゆとりのあるプレイングができるので、まず1周プレイして何らかの結末に辿り着いた後これを課金するのが個人的にもっともオススメの手順として提案しておきたい。

 今作の課金ラインナップは以上である。

以上である。今までのじぃーま氏のゲームを全作プレイしたくらいのファンは「おや?」と思ったのではなかろうか。

「リトルボムガール」はなんと!あんなにカワイイ爆弾ちゃんのカラーチェンジ・着せ替え要素を課金要素にせずゲームプレイ中で全て行えるようにしたのである!!!!

具体的には特定の授業を受けることでパラメータに補正がかかるコスチュームチェンジと、パラメータに影響の無い趣味の外見変化・カラーリング変更の2パターンの変化を得る事ができるのだ。「Time Machine」からあったカラー変更をも今作はゲーム本編に盛り込んでいる。

これはこのご時世において結構な判断である。あれだけカワイイ爆弾ちゃんを飾り立てるのは正直、本来であれば課金の稼ぎどころであるはずだ。それを爆弾ちゃんがカワイイからこそ、そのカワイさを課金の有無で味わえる度合に差が出ないようにしたのはじぃーま氏の粋な取り計らいと言うほかなく、じぃーま氏がこういう御仁だから良いゲームを生み出し続けられ、たくさんのファンがつくしファンはちょっとでも課金したいと思えてくるんである。

なので今回は重ねて推しますが『テスト11時間ごと』だけでも購入していただければ幸いです。実際これがあるとプレイの快適さは結構違ってきますのでなにとぞ。

 

爆弾ちゃんはプレイヤーの時間をも消し飛ばすのだ

 「ポストアポカリプスベーカリー」で一旦まったりさせてからの本作、難易度もほどほどに易くなく難くなくの塩梅で、テキストメインのつくりはタップひとつで楽な姿勢でプレイするにも丁度よいのでこの記事で知って興味を持った方がいればぜひ、日々のスキマ時間を埋める1作としてでも手に取ってくれたらと思う。

 

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カレー。それすなわちナマステ。

 

核爆弾級にカワイイ爆弾ちゃんとのふれあいは、自分の価値観とかなんか色々までもを爆発させられ吹き飛ばされる衝撃の経験になる……かもしれない。